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民泊法について思うこと

民泊法は何のためか

「宿泊料を受けて、人を宿泊させる営業」(これを旅館業という。旅館業法第2条2項)を営むためには、旅館業の許可を都道県知事から受けなければならない(同法第3条1項)。いわゆる民泊は、それを業とする、つまり反復継続するつもりで対価を得て行う限り、旅館業に該当するので、旅館業の許可が必要であり、それがないままになされてきた民泊は、従前は、法解釈上は、旅館業法に違反するものであった。これを緩和するため、住宅宿泊事業法(民泊法)が2017(平成29)年6月に成立し、同法に基づく届出をすれば、年間上限日数(180日)までは民泊ビジネスを行うことができることになった。住宅宿泊事業法(民泊法)は、「住宅宿泊事業を営む者の業務の適正な運営を確保しつつ、国内外からの観光旅客の宿泊に対する需要に的確に対応してこれらの者の来訪及び滞在を促進」(民泊法第1条)するために制定された。つまり「来訪と滞在を促進」するのが目的である。

また、民泊法は、都道府県(または保健所設置市等)は、住宅宿泊事業に起因する「騒音の発生その他の事象による生活環境の悪化」を防止するため必要があるときは、合理的に必要と認められる限度において、「政令で定める基準」に従い条例で定めるところにより、区域を定めて、住宅宿泊事業を実施する期間を制限することができる、としている(民泊法第18条)。つまり、都道府県は、条例で定めることにより、民泊法が定める180日という年間上限日数をさらに短くすることが、それは「合理的に必要と認めらえる限度」でなければならず、かつ、「区域を定めて」行わなければならない。

これを受け、受託宿泊事業法施行令は、この政令で定める基準について以下のように定めている。
 

  • 区域ごとに、住宅宿泊事業を実施してはならない期間を指定して行うこと。
  • 区域の指定は、土地利用の状況その他の事情を勘案して、住宅宿泊事業に起因する騒音の発生その他の事象による「生活環境」の悪化を防止することが特に必要である地域内の区域について行うこと。
  • 期間の指定は、宿泊に対する需要の状況その他の事情を勘案して、住宅宿泊事業に起因する騒音の発生その他の事象による「生活環境の悪化」を防止することが特に必要である期間内において行うこと。

財産権の制約

民泊法18条による制限は、所有する住宅を用いて住宅宿泊事業を営なもうとする者にとっては憲法で保障された財産権の行使に制約を与えるものである。したがって、その制限の目的やその目的を達成するための手段は不合理なものであってはならない。

ガイドライン

 民泊法「の趣旨を踏まえると、住宅宿泊事業に対して、事業の実施そのものを制限するような過度な制限を課すべきで はないが、生活環境の悪化を防止する観点から必要があるときは、本条に基づき、合理的と認められる限度において一定の条件の下で例外的に住宅宿泊事業の実施を制限 することを認めている。住宅宿泊事業に起因する事象による生活環境の悪化を防止する必要性は個々の区域によって異なるものであることから、住宅宿泊事業の実施の制限は各区域の実情に応じてきめ細やかに行う必要がある。

 

 [中略] 区域の設定において、例えば、都道府県等の内の「住居専用地域」全域を対象とするなど、かなり広範な区域を制限の対象とすることを検討する場合には、住居専用地域を含めて全国的に健全な民泊サービスの普及を図ることとした本法の目的を十分踏まえるとともに、各地域毎に住宅宿泊事業に伴う騒音等が当該地域の生活環境にもたらす影響等についてきめ細やかに検討を行うなど、合理的に必要と認められる限度において、特に必要である範囲で区域が設定されているかどうかについて特に十分な検証を行い、本法の目的や法第 18 条の規定に反することがないようにす る必要がある。

 

同様に、期間の設定において、月や曜日を特定して設定し、その結果、年間の大 半が制限の対象となるような場合には、当該制限を行うことによって、当該区域の 生活環境に悪影響がもたらされることが想定しがたい期間も含めて当該区域における営業が事実上できなくなるなど、合理的に必要と認められる限度を超えて過度な 制限となっていないか等について特に十分な検証を行い、本法の目的や法第 18 条の規定に反することがないようにする必要がある。[ 中略 ]

【区域及び期間の設定のイメージ】 以下に、条例制定に当たってのイメージを例示する。なお、これらの事例はあくまで例示であり、制限される区域の範囲、期間の妥当性、必要性等については、各都道府県等で個々具体的に検討の上、判断される必要がある。

 

A 静穏な環境の維持及び防犯の観点から学校・保育所等の近隣地域において、住宅宿泊事業を実施することにより、学校・保育所等の運営に支障をきたすほどに、 現状では保たれているその生活環境が悪化するおそれのある場合
区域:当該施設周辺の一定の地域
期間:月曜日から金曜日まで(学校の長期休暇中は除く。)

生活環境の悪化と変化

ここで、「住宅宿泊事業に起因する騒音の発生その他の事象による生活環境の悪化」というときの、「騒音の発生」はわかりやすいが、その他の事象による「生活環境の悪化」ということばは、必ずしもその意味が判然としていない。

この点、実は、民泊法以外にも、「生活環境の悪化」という言葉を用いている法律がある。例えば、気候変動適応法第二条は、「この法律において「気候変動影響」とは、気候変動に起因して、人の健康又は生活環境の悪化、生物の多様性の低下その他の生活、社会、経済又は自然環境において生ずる影響をいう。」とし、災害対策基本法第八十六条の五は「著しく異常かつ激甚な非常災害であつて、当該災害による生活環境の悪化を防止することが特に必要と認められるものが発生した場合には、当該災害を政令で指定するものとする。」とし、武力攻撃事態等における国民の保護のための措置に関する法律第百二十四条は、「環境大臣は、大規模な武力攻撃災害の発生による生活環境の悪化を防止することが特に必要であると認めるときは、期間を限り、廃棄物(廃棄物の処理及び清掃に関する法律(昭和四十五年法律第百三十七号。次項及び第三項において「廃棄物処理法」という。)第二条第一項の廃棄物をいう。以下この条において同じ。)の処理を迅速に行わなければならない地域を特例地域として指定することができる。」としている。

他に、「生活環境の悪化」ということばが用いられている法律等には、大規模小売店立地法第四条、大規模小売店立地法施行令第四条、国会等の移転に関する法律前文、工場立地法第四条、港湾法第四十三条の五がある。

これらからわかることは、「生活環境の悪化」というのは、客観的に認識可能な何らかの「悪化」でなければならず、客観的に認識することができない個人が内心で抱く不安や、客観的に認識可能であっても「変化」に過ぎず「悪化」ではないものは「生活環境の悪化」ではない、ということである。

騒音の他に、例えばゴミの処分の仕方の不適切さによる悪臭の発生や、交通渋滞の発生は「生活環境の悪化」たりうるだろう。しかし、「かつての閑静な住宅街が、今では多くの見知らぬ外国人がキャリーバッグを引きずりながらスマホ片手に宿泊先を探しながら歩き、外国語で会話をしているのを頻繁に見かける。」というのは、環境の「変化」であって「悪化」ではない。民泊事業による「生活環境の悪化」として認識可能なものとして想定できるのは、騒音、悪臭の他に、民泊の場所を舞台に犯罪行為が行われることであるが、犯罪行為の場所として使われる可能性がある場所は民泊に限らない。

上乗せ条例によって民泊ビジネスが制約される場所と期間

さて、上述のガイドラインは、「静穏な環境の維持及び防犯の観点から学校・保育所等の近隣地域において、住宅宿泊事業を実施することにより、学校・保育所等の運営に支障をきたすほどに、現状では保たれているその生活環境が悪化するおそれのある場合」に、該施設周辺の一定の地域に限定し、月曜日から金曜日まで(学校の長期休暇中は除く。)の期間、民泊事業を禁止することを「条例設定にあたってのイメージ」としてあげている。

 

例えば東京都世田谷区の条例では、第一種低層住居専用地域、第二種低層住居専用地域、第一種中高層層住居専用地域および第二種中高層専用地域において、「月曜日の正午から土曜日の正午まで(国民の祝日に関する法律に規定する休日を含む場合にあっては当該休日の正午から当該休日の翌日の正午までの期間を除く)」を民泊の実施を制限する期間としている。

 

また、東京都港区では、家主不在型の民泊事業について、1月11日正午から3月20日正午まで、4月11日正午から7月10日正午まで、および9月1日正午から12月20日正午までの期間、民泊事業の実施を制限するとしている。

 

このような、民泊を、「週末のみ許す」形態や、「学校の春休み、夏休みおよび年末年始の休暇期間のみ許す」という、いわゆる上乗せ条例は全国に広がっている。

 

法第18条が区域と期間を定めて民泊事業を制限する条例を定めること地方自治体に認めたのは、民泊事業によって想定される「生活環境の悪化」の内容とその回避のための区域や期間の定め方については、各地域の実情にそくしたきめ細やかな判断が必要だからである。「小中学校の通常の授業がある日は区内の住居専用地域すべてで民泊禁止」、というのは、そのようなきめ細やかな判断ではない。学校や保育所の周囲にあるマンションの一室で民泊事業が始められたからといって、「学校・保育所等の運営に支障をきたすほどに、現状では保たれているその生活環境が悪化」することは考えられない。

 

例えば、大規模なマンション一棟全体が民泊に用いられ、多くの宿泊者の歩行が、通学時間帯の通学路における児童の安全な歩行を阻害するようになった、という場合には、その学校の周囲や通学路近辺では平日の民泊ビジネスを制約することが合理的である場合が考えらえるが、そのような事情なしに、住居専用地域全体で民泊ビジネスを平日は全面的に制約する、というのは、法の目的を超えている。

犯罪行為の温床と生活環境の悪化

いわゆるヤミ民泊を舞台に行われた犯罪の報道もあり、民泊が増えると犯罪が増える、という想定のもとに、とりわけ学校の周囲や住宅街では民泊を禁止してほしい、という住民の方々がおられるかもしれないし、民泊を宿泊場所として利用しようとする外国人に対する何らかの不安を感じている住民の方々もおられるかもしれない。

さて、日本を訪れる外国人の数は、2008年には約835万人だったのが、2017年には約2870万人と約3.44倍に増加した (https://www.jnto.go.jp/jpn/statistics/visitor_trends)。

それでは、日本を訪れる外国人の数が増えた結果、それに比して、外国人の犯罪も増えたのだろうか?

実際はその逆である。2008年に34,620件だった外国人刑法犯検挙件数(うち来日外国人の検挙件数は23,202)であったが、2017年には、外国人刑法犯検挙件数は17,156件(うち来日外国人の検挙件数は11012)と半減している。平成29年の刑法犯に関する統計資料 (平成30年7月 警察庁) 

 

つまり、外国人が増えると犯罪が増える、というのは誤解である。

したがって、自治体は、外国人が増えることを「生活環境の悪化」の一要素として考慮に入れてはならない。

注 本稿は2019年4月23日現在のものです。その後改定することがあります。

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